(2)気候変動影響に対する緩和策(温暖化対策)と適応策(熱中症)に係る北海道の取組

北海道経済部 ゼロカーボン推進局 ゼロカーボン戦略課主幹(気候変動適用)深田 実昭 様

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本日は、北海道における地球温暖化への対策と、気候変動に伴う影響への適応についてご説明いたします。

特に、近年増加傾向にある熱中症への対応を中心にお話しします。

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近年の科学的研究により、地球の平均気温が確実に上昇していることが明らかになっています。

この事実は、国際的な科学者の集まりである「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書にも示されています。

IPCCが発表した第6次評価報告書(2021〜2023年)では、「地球温暖化は、人間活動による温室効果ガスの排出によって引き起こされてきたことに疑う余地はない」と明言されています。

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世界の大気中の二酸化炭素(CO₂)濃度は、化石燃料の使用量の増加により、特に1960年代以降、急上昇しています。

このCO₂の増加が、地球温暖化の主な原因のひとつとされています。

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長期観測結果によると、北海道では、平均気温は100年あたり約1.79℃の割合で上昇しています。

また、1時間に30ミリ以上の「バケツをひっくり返したような豪雨」とされる短時間強雨は、最近10年間で最初の10年間と比べて約1.5倍に増加しています。

最深積雪は減少傾向にあり、将来予測では、今後も温暖化対策を行わなかった場合の4度上昇シナリオでは、平均気温は約5℃上昇、短時間強雨の発生件数は20世紀末と比べて約4.6倍、最深積雪は約38%減少すると予測されています。

特に今年は、道内各地で大雨による被害が多く、道東では道内初の線状降水帯が発生するなど、気候変動の影響が顕著に現れました。

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北海道内の年平均気温の変化を見ると、100年あたりの上昇幅は地域によって差があります。

最も上昇したのは札幌で約2.5℃、最も影響が少なかったのは室蘭で約0.8℃の上昇となっています。

札幌は都市化やヒートアイランド現象の影響も受けているため、気温上昇が大きくなっていると考えられます。

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気温上昇が続くと、今世紀中には地球の平均気温が2℃を超えるとも言われています。

この気温上昇により、図に示すとおり、風水害や海面上昇などの直接的な影響、生態系の変化や感染症リスクの拡大による健康面への影響、農林水産業や観光など産業への影響など、私たちの生活にはさまざまな影響が及びます。

また、気温上昇だけでなく、天候不順による気温の低下や、CO₂の増加による海の酸性化も進行しています。

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こちらは、北海道の気候変動計画からの抜粋です。
道内では、気温上昇により農業への影響が見られています。

当初は、収量の増加や食味の向上が予測されていましたが、一昨年の猛暑では、コメの白未熟粒の発生やデンプンの病気など、農作物への影響が確認されています。

一方で、ワイン用ブドウの生産には適した気候となり、道内でもワイナリーが増えるなど、良い影響もあります。

このほか、自然生態系や自然災害、国民生活へのさまざまな影響が予測されており、この後説明する熱中症による救急搬送者数の増加もその一例です。

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地球温暖化を要因とする気候変動への対策には、「緩和」と「適応」という2つのアプローチがあります。この2つは互いに補い合う関係にあります。

「緩和」とは、温室効果ガスの排出量を減らすことを目的とした取り組みで、再生可能エネルギーの活用や、森林によるCO₂吸収などが含まれます。

一方、「適応」とは、既に起きている気候変動の影響や将来予測される影響に対応する取り組みで、図右の災害対策や図左の熱中症予防などが該当します。

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北海道では「ゼロカーボン北海道」の実現を目指しています。

人間の活動によって温室効果ガスの排出は避けられませんが、省エネルギーの徹底や森林による吸収などにより、排出量と吸収量を同じにすることで、実質的に排出ゼロを目指す「カーボンニュートラル」の考え方に基づいています。

本道ではこのカーボンニュートラルを「ゼロカーボン」と呼び、環境保全・経済発展・道民生活の向上とカーボンニュートラルの同時達成を目指し、持続可能で活力ある北海道の実現を目標としています。

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北海道には、風力・太陽光・バイオマス・水力など、再生可能エネルギーの豊富なポテンシャルがあります。

さらに、二酸化炭素の吸収源となる豊かな森林も有しています。

こうした地域特性を活かし、北海道では2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指しています。
 その中間目標として、2030年までに2013年度比で48%の排出削減を掲げ、政府目標を上回る水準で脱炭素化に取り組んでいます。

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北海道では、2030年までの温室効果ガス排出量削減に向けて、具体的な数値目標を掲げています。

右側の棒グラフに道の目標値を示しています。青い棒は、省エネルギーの促進と再生可能エネルギーの導入による削減量、緑の棒は森林等による吸収量です。

2030年までに、省エネと再エネ導入で2,254万トンのCO₂を削減し、森林等の吸収で1,142万トンのCO₂を確保することで、2013年度比で48%の排出削減を目指しています。

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「ゼロカーボン北海道」の実現に向けて、北海道では7つの柱を中心に、地域の脱炭素化支援などの取り組みを進めています。

また、達成に向けたタイムスケジュールでは、2025年までをスタートアップ期間として、認識共有、機運醸成、行動喚起を図ります。

2030年までは、既存技術を最大限活用して脱炭素への道筋を構築し、その後は新技術の導入や取り組みの加速により、2050年の「ゼロカーボン北海道」の実現を目指します。

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北海道では、「地球温暖化防止対策条例」を制定し、温室効果ガスの排出削減に取り組んでいます。

一定量以上の温室効果ガスを排出する特定事業者には、排出量の削減計画と実績報告の提出をお願いしています。

また、特定事業者以外の方々にも、自社の排出量を算定・把握し、排出抑制対策を立案・実施していただくことを目的に、任意で報告できる「簡易報告制度」を新たに創設しました。

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さらに、北海道では一昨年から「北海道排出量ボードシステム」を運用しています。

このシステムを利用することで、削減計画や実績報告をオンラインで提出でき、年ごとの排出量をグラフで確認することが可能です。

数値を入力することでデータが一元管理され、ボタン一つで道への申請も行えます。

システムを利用できない方には、メールや北海道電子申請サービスでの提出も受け付けています。

提出された結果はExcel形式のオープンデータとして公表され、5年間継続して報告している事業者については、業種別の排出量などをまとめた表も公開しています。

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北海道では、平成30年(2018年)12月に施行された「気候変動適応法」の趣旨を踏まえ、地域特性や社会情勢の変化に応じた「適応」の取り組みを総合的かつ計画的に進めるため、令和2年(2020年)3月に「北海道気候変動適応計画」を策定しました。

この計画では、「本道の強みを活かす適応の取組の推進」、「情報や知見の収集と適応策の検討」、「道民・事業者への理解・取組の促進」、「推進体制の充実・強化」の4つの基本方針に基づき、「緩和」と「適応」の両輪で地球温暖化対策を推進しています。

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令和3年(2021年)4月、北海道では「気候変動適応法」に基づき、道内における適応の取り組みを推進するため、「北海道気候変動適応センター」を設置しました。

このセンターは北海道が運営し、地方独立行政法人北海道立総合研究機構による研究・技術的助言、公益財団法人北海道環境財団による普及啓発活動などの協力を得ながら、連携体制のもとで運営されています。

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北海道気候変動適応センターの運営体制は、図に示したイメージのとおりです。

国や道内の関係機関と連携し、「気候変動適応推進会議」を開催することで、情報共有や意見交換を行っています。

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北海道気候変動適応センターの活動例として、センターのホームページを作成し、研究情報などの科学的知見は、北海道立総合研究機構の協力を得て掲載しています。

また、事業者の取り組み事例の紹介や、セミナー開催情報などをメール配信やホームページで公開するなど、情報の収集と発信を進めています。

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北海道気候変動適応センターの協力機関である北海道立総合研究機構では、エネルギー・環境地質研究所を中心に、気候変動に関する啓発活動を行っています。

左側に示したように、「未来の天気予報」などの啓発コンテンツを公開するとともに、道内の研究者の連携を深めるため、今年度もシンポジウムを開催予定です。

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ここから、北海道が行った熱中症に対する調査研究事業についてご説明します。

北海道では、環境省から委託を受け、令和4年度から令和6年度にかけて、「国民参加による気候変動情報収集・分析委託事業」を実施しました。

1年目の令和4年度には、農協、漁協、観光業者、スキー場経営者などの事業者約400件と、道民約4,400名を対象に、気候変動によってもたらされる影響についてアンケート調査等を実施しました。この調査を通じて、道内における状況の変化や影響に対する懸念について、情報および事例の収集を行いました。

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2年目の令和5年度には、1年目の調査結果を踏まえ、道民の皆様の関心が高かった「暑熱・熱中症」を課題として選定しました。

道内における「熱中症救急搬送者数」や「熱中症リスク」の将来予測を行うため、予測に有用な情報の収集・分析、有識者からのヒアリングなどを実施しました。

また、広域分散型で多様な地域特性を持つ北海道の状況に対応するため、熱中症に関する将来予測計算を行うための「将来予測手順書」を作成しました。

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3年目の令和6年度には、前年度に作成した「将来予測手順書」に基づき、道内における「熱中症救急搬送者数」と「熱中症リスク」に関する将来予測計算を実施しました。

また、高齢者、高齢者支援団体、消防関係者、農業従事者、学生など、幅広い道民の皆様を対象に、意見交換やワークショップを開催しました。

これらを通じて、道内の気候変動影響に関する意識の変化を把握し、地域特性を踏まえた熱中症への適応策や、気候変動影響への普及啓発のあり方について検討を行いました。

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調査の結果、北海道・青森県・宮城県・東京都における年代別の熱中症搬送者数、死亡者数・重傷者数の地域ごとの比較を行いました。

左上のグラフからは、北海道では搬送者数、死亡者数、重傷者数がいずれも増加傾向にあることがわかります。

また、年代別の搬送者数を見ると、北海道は青森県と似た傾向があり、特に高齢者の占める割合が高く、搬送者数が多い年ほどその傾向が顕著に見られました。

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次に、北海道と東京都における熱中症救急搬送者数の割合に分析を行いました。

上の年齢別のグラフをご覧いただくと、北海道では東京都と比べて、熱中症搬送者数に占める高齢者の割合が高い結果となっています。

また、下の熱中症発生場所別のグラフからは、北海道では東京都と比べて、熱中症が住居内で発生する割合が高いという特徴が見られます。

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次に、道内の熱中症救急搬送状況について分析を行いました。

北海道内では、2023年の熱中症搬送者数が3,000人を超え、過去と比べても突出して多い年となりました。一方、札幌市における夏季の日平均気温は、2024年には2023年よりも約1℃低い結果となっています。

こうした気温の推移と熱中症搬送者数の関係から、北海道の熱中症搬送者数は、年平均気温や日最高気温30℃以上の日数など、気温の変動に応じて増減する傾向があると考えられます。

ちなみに、今年(2025年)は6月から8月までに約2,600人を超える搬送が確認されています。

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こちらは、熱中症救急搬送者数の将来予測計算の結果です。過去の搬送者数の推移や気温などを含む推計式をもとに、北海道全域での将来予測を行いました。

上段のグラフでは、搬送者数の総数について、将来的な人口減少の影響により、予測値は実績値と比べて低めに出ています。ただし、予測の振れ幅の最大値は、現状を大きく上回る可能性も示されています。

下段のグラフでは、10万人あたりの搬送者数の予測値を示しており、人口減少を考慮した単位当たりの予測値として、年代ごとに2023年の実績値を上回る年が存在すると予測されました。なお、本業務では北海道全域に加え、熱中症警戒アラートの地域区分をベースにした7つの地域区分についてもそれぞれ予測を行っており、地域ごとの結果は道のホームページで公開していますので、ぜひ参考にしてください。

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北海道では、住居内での熱中症搬送者数が多いという調査結果や、道内のエアコン普及率が全国と比べて低いことを踏まえ、昨年度、「おうちでできる熱中症対策、省エネにもつながる夏のひと工夫」と題したチラシを作成しました。

このチラシは市町村を通じて配布し、エアコンだけに頼らない自宅での熱中症対策について、道民の皆様へ広く周知を行っています。

今後も、こうした啓発活動をより一層推進していくこととしています。

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北海道で熱中症予防対策を担当しているのは、保健福祉部地域保健課ですが、左側に示したホームページでは、熱中症予防のポイントやクーリングシェルターの情報などを掲載しています。

右側は、国立環境研究所の気候変動適応センターが公開している「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」の熱中症関連情報ページです。参考情報が非常に充実していますので、ぜひご活用ください。

なお、今年度は「労働安全衛生規則の改正」により、事業主による熱中症対策が義務化されました。本日ご出席の生活衛生同業組合の皆様にも、熱中症に関する情報を適切に収集していただきますようお願いいたします。

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以上をもちまして、私から温室効果ガスの排出抑制および気候変動対策、特に熱中症に関する取り組みについてのご説明を終了させていただきます。

最後までご清聴いただき、誠にありがとうございました。