事業の趣旨
公益財団法人北海道生活衛生営業指導センターでは, 地球環境保全の観点から, 2010年から2022年までの期間において, クリーニング業界や消費者団体等と連携・協力し, クリーニング包装材の再利用促進を目的として, プラスチックハンガーの回収など「プラスチック製品の削減」に向けた取り組みについて, 利用者等への周知啓発活動を行ってきました.
2023年からは, 引き続き地球環境保全の観点に加え, 北海道が2050年までの実現を目指す「ゼロカーボン北海道」の方針を踏まえ, 道内11の生活衛生同業組合, 行政機関, 消費者団体等と連携・協力し, 道内の生活衛生関係営業者および利用者の皆様が, 事業活動や日常生活において排出される温室効果ガスの削減に対する意識を高められるよう, 普及啓発活動を推進するための会議を開催するとともに, ホームページ等を通じて広く周知啓発を行います.
1 令和7年度温室効果ガス排出量の削減に係る推進会議の開催
事業の概要
令和7年度温室効果ガス排出量の削減に係る推進会議
〇日 時:2025年10月22日(水)
〇場 所:ホテルモントレエーデルホフ札幌 12階「ベルクホール」
〇参集範囲:北海道生活衛生同業組合(理容・美容業・クリーニング・公衆浴場業・ホテル旅館・興行・鮨商・食肉・社交飲食・麺類飲食業・料理飲食業), 北海道保健福祉部, 北海道経済部, 北海道農政部, (一社)北海道消費者協会, (独法)北海道立総合研究機構, 北こぶしリゾート, (公財)北海道生活衛生営業指導センター
〇議 事 等:今年度は, 行政機関および生活衛生同業組合による講演のほか, 参集者の皆様から貴重なご意見や情報提供をいただきました。その概要を以下に掲載いたします。
2 北海道生活衛生同業組合における温室効果ガス排出量の削減に向けた取組み等について
北海道生活衛生同業組合では、温室効果ガス排出量の削減に向けた取組み等を行っています。
今年は、北海道ホテル旅館生活衛生同業組合の常務理事であり、北こぶしリゾート専務取締役の桑島敏彦様より、「旅館のためのSDGs教科書」と、ホテルで実践しているSDGs活動「クマ活」について情報提供を頂きました。
― 北海道ホテル旅館生活衛生同業組合常務理事(北こぶしリゾート専務取締役) 桑島敏彦 様 ―
1「旅館のためのSDGs教科書」
(1)作成の経緯など
①問題意識の背景
SDGs(持続可能な開発目標)という言葉は広く知られているが、旅館業界ではその概念が浸透しておらず、実践に結びついていないという課題がありました。
②青年部での議論から誕生
全国組織の青年部に出向していた際、全国の仲間と「旅館業界にSDGsをどう根付かせるか」について議論。上辺だけで終わらせないために、業界向けの教科書を作るべきという結論に至りました。
③制作体制
北海道ホテル・旅館生活衛生同業組合が発行。若手の青年部が実行部隊として協力し、現場の視点を反映した内容に。全国の青年部と議論を重ね、旅館業界にSDGsの考え方を浸透させる目的で作成しました。
(2)教科書の構成
①基本理念
「持続可能性が求められる現代に向けた宿と地域づくり」をテーマに、地域密着型の宿泊業が果たすべき役割を提示。
②構成(5章立て)
【1 基本のSDGs】
SDGsの基本、SDGsの17目標の概要と背景を解説。
【2 観光業としてのSDGs】
自然環境との共生、エネルギーや資源の活用方法など。
【3 宿泊業・観光業のSDGs】
宿泊施設が取り組むべき具体的な行動指針。
【4 観光産業のSDGs事例】
先駆者に学ぶ、他地域・他施設の先進事例を紹介。
【5 もっとよく知るSDGs】
世界から見た日本のSDGs、日本の達成度ランキングや課題(例:ジェンダー平等)を分析。
(3)具体的な内容
「旅館のためのSDGs教科書」では、持続可能な観光地づくりに向けて、旅館業界が果たすべき役割とその実践方法について、具体的かつ実践的な視点から作成しています。
特に「2 観光業としてのSDGs」では、観光業におけるSDGsの根幹となる考え方を示しています。
まず、観光地は単に訪問客を迎える場ではなく、「訪問客」「業界」「環境」「地域コミュニティ」という4つのステークホルダーのニーズに応える存在であるべき、そのためには、経済・社会・文化・環境という4つの軸をバランスよく循環させることが求められています。これらの要素は相互に影響し合うため、どれか一つに偏るのではなく、全体として調和の取れた運営が重要です。
また、SDGsの取り組みは一度導入すれば終わりというものではなく、常に見直しと改善を繰り返しながらアップデートしていく姿勢が不可欠です。観光業は社会や環境の変化に敏感な産業であるからこそ、柔軟で持続的な対応が求められています。
「4 観光産業のSDGs事例」では、複数の実際の取り組み事例を掲載しています。
例えば、阿蘇温泉観光旅館協同組合によるサステナブルな活動を紹介しています。ここでは、地域の旅館が連携し、環境保全や地域貢献を意識した運営を行うことで、持続可能な観光地づくりを実現しています。
その他にも、宮古島の事例も取り上げ、自然環境を守りながら観光を発展させる「サステイナブルツーリズム」の実践例として紹介しています。島の自然資源を守ることと、観光による地域経済の活性化を両立させる取り組みは、他地域にとっても参考となるモデルです。
「5 もっとよく知るSDGs」では、SDGsに関する国際的な達成度ランキングを掲載しています。日本は世界で18位に位置し、これは比較的高い評価ですが、特にジェンダー平等の分野においては課題が残っていて、政治分野における女性の参画の少なさが指摘されています。北欧諸国が上位を占める一方で、アメリカは46位、中国は68位と、日本の立ち位置と課題が浮き彫りになっています。
このように、本教科書は旅館業界がSDGsを自らの経営に取り入れ、地域社会とともに持続可能な未来を築くための道標となる内容としています。
2 「クマ活」― 知床発、自然と共生するための地域活動
(1)背景と目的
知床は世界自然遺産および国立公園に指定されており、海と陸がつながる独自の生態系が高く評価されています。
この地域は、アラスカと並ぶ世界有数のヒグマの生息密集地でもあり、人とクマの距離が近いことから、近年はクマによる人身事故も発生するなど、共生の在り方が大きな課題となっています。
こうした状況を受け、北こぶしリゾートでは、創業60周年を迎えた2020年に「地域への恩返し」として、クマと人との共存を目指す活動「クマ活」をスタートしました。
(2)主な取り組み内容
【1 草刈り活動】
クマの接近を防ぐため、ホテル周辺のイタドリなどの繁茂する草を刈り取り、人とクマの「境界線」を明確にする作業を毎年5月末から6月にかけて実施。
【2 ゴミ拾い】
クマを誘引する原因となるゴミを地域住民や観光客と協力して回収。清潔な環境を保つことで、クマの出没リスクを軽減。
【3 普及啓発活動】
クマとの共存の重要性を伝えるため、地域住民や観光客、学生、企業などと連携し、啓発活動を展開。
(3)実績と広がり
2020年の開始以来、21回の活動を実施して延べ772名が参加しています。地元住民だけでなく、学生や企業、プロサッカーチーム「北海道コンサドーレ札幌」なども参加しています。また、活動の経済的価値化にも動き出しています。
(4)今後について
「クマ活」は、単なる保護活動にとどまらず、自然との共生を体験することで、世界中の人々に自然の価値を再認識してもらうことを目的としています。私たちは、知床という自然を守りつつ、その価値を体験する機会を提供することで、世界中の皆様の自然に対する認知度を高めたいと考えています。
その結果として、人々の行動が「ネイチャーポジティブ」な行動のきっかけとなる先進地として世界に認識されるよう、持続可能な観光地づくりに貢献していきたいです。
私たち宿泊業界、そして観光業界として、SDGsに少しでも良いインパクトを与えられるよう、日々取り組みを進めています。本日はその活動の一端をご紹介させていただきました。
■ 「クマ活」動画 ■
文中の「北こぶしリゾートが行っている「クマ活(知床のクマを守る活動)」」は、北こぶしリゾートチャンネルでご覧いただけます。
外部サイトにリンク ⇒ https://www.youtube.com/watch?v=KyKTOsBQbaI
3 意見交換等
一般社団法人北海道消費者協会 専務理事 嵯峨仁朗様より「北海道消費者協会における食品ロス削減への取り組み」、また、地方独立行政法人北海道立総合研究機構 主査 鈴木啓明様より「気候変動の状況や地域連携」などについて情報提供を頂きました。
― 一般社団法人 北海道消費者協会 専務理事 嵯峨仁朗 様 ―
北海道消費者協会では、食品ロス削減に向けたさまざまな取り組みを進めています。
主な活動内容をご紹介いたします。
■ 食品ロスの背景と課題認識
食品廃棄物には「家庭系」と「事業系」があり、ホテルや旅館などから排出されるものは事業系に分類されます。当協会では、「一般社団法人北海道消費者協会事業計画」において、食品ロス対策を取り組みのひとつとして掲げ、推進しています。
SDGsの目標である「2030年までに世界全体の一人当たりの食料廃棄を半減させる」という方針に沿って、食料自給率の向上とともに、取り組みの拡大を図っています。
■ 主な取り組み内容
1 賞味期限と消費期限の理解促進
消費者の間では、「おいしく食べられる期間」の賞味期限と、「安全に食べられる時期」を示す消費期限の違いが十分に理解されずに、まだ食べられるのに捨てられたりするケースもあります。当協会では、まず簡単で身近な食品ロス対策につなげられるこの啓発活動を行っています。
2 フードドライブの推進
道内各地の消費者協会関係者が集まり、共通の課題について話し合う「消費者大会」はじめ、いろいろな機会に、各地域から余った食材を持ち寄ってもらい、フードドライブの事業者に提供する取り組みを実施しています。参加者の意識の高さが感じられる活動です。
3 生産・加工・流通段階での食品ロス対策
食品ロスは、生産から流通までの各段階で発生します。これらの段階におけるロスへの関心を高め、生産者との連携を強化することも重要です。
また、「手前取り」と呼ばれる、消費期限が近い商品を積極的に選ぶ行動も、消費者にとって分かりやすく、実践しやすい取り組みの一つです。
■ 消費者の意識と行動
当協会では毎年、消費にかかわるさまざまな問題について尋ねる「消費者問題実態調査」を実施し、加盟者協会や関係する方々にアンケートを行っています。その一環で実際に行っている「エシカル消費」につながる行動を尋ねたところ、最も多く挙げられたのが「食品ロスを減らすこと」で、72.7%の方が実践していると回答しました。
その他にも、プラスチックの使用を控える、リサイクル品を活用するなどの行動が見られました。
そういう意味で、食品ロス削減は、作りすぎない、賞味期限が切れてもすぐに捨てないなど、地球環境を守るために取り組める最も身近な活動の一つと考えています。
― 地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 産業技術環境研究本部 エネルギー・環境・地質研究所 環境保全部 水環境保全グループ 主査(気候変動) 鈴木啓明 様 ―
昨年のこの会議では、最近の気候変動が北海道にどのような影響を及ぼしているかについてお話しさせていただきました。今年も引き続き、夏の厳しい暑さや降雨パターンの変化など、地域に深刻な影響が及んでいることを実感しています。
こうした状況を踏まえ、温室効果ガスの削減と、すでに起こっている変化への「適応」の両面から対策を進める必要性を、改めて強調したいと思います。
一方で、気候変動が「自分ごと」として捉えられにくいという課題も依然として存在しています。今日の質疑の中でも、「なかなか実感が湧かない」「身近に感じられない」といった声が聞かれました。おそらく、本日ご出席の皆様の中にも、そう感じている方が少なからずいらっしゃるのではないかと思います。
私は気候の研究をしている立場ですが、今後さらに厳しい気象状況が予測されることは、データからも明らかです。
そうした現実を知っていただき、「では、私たちに何ができるのか」を一緒に考えていく機会を少しでも増やしていければと考えています。
研究というと、どうしても難しく感じたり、堅苦しい印象を持たれがちです。そこで、気候変動をより身近に感じていただけるよう、「未来の天気予報」という動画を制作し、ウェブ上で公開しています。「未来の天気予報 北海道」と検索していただければ、ご覧いただけます。
また、北海道環境財団さんや、道庁とも連携し、親しみやすい形で環境学習を進める取り組みも行っています。
先日は、イベント内で元ファイターズの鶴岡さんとのトークショーに登壇し、「この街では今後こんな影響が起こってくるんだね」といったお話を交えながら、気候変動について参加者とともに考えました。
こうした活動を通じて、まずは気候変動というテーマと仲良くなることが大切だと感じています。
堅苦しく勉強するのではなく、日常の中で自然に関心を持っていただけるような工夫を重ねていきたいと思います。今後も、柔軟で参加しやすい形での情報発信や学びの場づくりを継続し、気候変動と向き合うきっかけを広げていきたいと考えております。
もし皆様の中で、それぞれの部門で気候変動に関心があり、「北海道」という切り口で何か取り組みを始めたいという方がいらっしゃいましたら、私や道庁、指導センターなど関係者までご連絡いただければ、連携の機会を設けることも可能です。
今後もこうした取り組みを積極的に進めていきたいと思っております。
文中の「未来の天気予報北海道(2100猛暑編・2100冬編)」は、北海道立総合研究機構の公式サイトでご覧いただけます。
外部サイトにリンク ⇒
https://www.hro.or.jp/industrial/research/eeg/development/publications/climate_change/index.html






